解雇がしやすくなると企業投資が盛んになる?:ハーバードビジネスレビューの記事から学ぶ
最も解雇がしやすい国:アメリカの現状
アメリカは世界で最も解雇が行いやすい国だといわれています。
少し古いですがOECD(経済協力開発機構)が2013年に実施した”従業員保護指数(OECD INDICATORS OF EMPLOYMENT PROTECTION LEGISLATION)での個人の解雇のしやすさでもダントツトップです(以下の「ダイヤモンドオンライン」の記事の中心はブラジルですがOECDのデータが記載されていますので参考にしてください。)。
合衆国全体に適用される”At-will Employment(解雇事由の原則)”にのっとり、予告なしかつ理由なしに解雇ができるというのが原則です。ただし、それではあまりにも労働者の地位が簡単に脅かされてしまうということで、州によっては”the good faith exception(直訳すると「善意の例外」ですね)"により、社員を会社が悪意を持って(例:年金受給権限が有効となるので解雇するなど)解雇することを禁じているところがあります。
解雇がしやすいと企業の経営にはプラスなのでしょうか?その点を投資の側面から調査した結果がハーバードビジネスレビュー(HBR)に掲載されていたので今回はこの記事を紹介したいと思います。
記事のタイトルは”Research:How Employee Protections Affect Investment and Growth(雇用保護は企業の投資や成長にどのように影響を与えるか"です。
hbr.org *記事の購読は定期購読者以外は3本まで無料。その後は1記事当たり約9ドル課金されます。
解雇のしやすい州とそうでない州を比較すると。。
この調査では、上記の”the good faith exception"を趣旨とした雇用保護を目的とした法律(以下「雇用保護法」と書きますね)を導入した州とそうでない州により投資や売り上げの比較を行いました。1969年から2003年の間の11,000社以上のデータから分析したそうです。
その結果得られたのが以下の通りです。
- 雇用保護法の導入は固定資産の投資にマイナスの影響を及ぼしている:実際全体の資産に占める投資の割合は保護法導入前から導入後1年後に0.5%(8.3%=>7.8%)に減少しており、平均で600万ドル(約6億円)減少している。
- 売上増加率も平均3.1%減少
- 雇用保護法を導入した州では、プロジェクトを縮小したり運営をより柔軟に行うことが難しい:従業員解雇や工場の閉鎖などは雇用保護を導入しない州で行う確率が高いことが認められている。
これだけ見ると雇用保護は企業の活動にマイナスのように見えますがそうでもありません。
- 雇用保護法を導入後、平均して260万ドル(2億6000万円)研究開発費を増加させている。
これは解雇がしにくくなると、企業の(目に見える)投資の柔軟性が失われるという一方で、長期的に解雇がされにくいという安心感は従業員のやる気や挑戦するリスクを許容し、イノベーションを生みやすくする土壌ができるという雇用保護のメリットを裏付けるものでもあります。
この記事を読んで
人事の仕事をしている私としてはとても面白い調査だなと思って読みました。それにいくつかの州が導入している雇用保護法は「企業が悪意で解雇することを阻止する」ものであり、解雇をすることがそれほど難しいものではありません。それでも固定資産の投資や売り上げに影響を及ぼすなんて面白いですよね。
私が特に興味深かったのは「雇用保護法により研究開発費が増加している」という結果です。実際記事でも「予期せぬ解雇や不公平な解雇を防止することは、仕事の維持や経済の安定に大きく貢献し、結果的に個人、家族、社会に良い影響を与えるということを示す文献がある」と書かれており、長期的に見た場合ある一定の雇用安定はプラスではないかと思います。
ただ、あまり雇用保護が強すぎるとそれが既得権益のようになり若者が採用されない(ヨーロッパなどでよくあるパターンですね)というマイナスの効果もありますので、その点のバランスが必要なのかもしれません。