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先進国での格差拡大を考える:マッキンゼーのレポートより

 

「パラサイト」や「万引き社会」が世界で称賛される理由

先週の週末、「パラサイト 半地下の家族」を見に行ってきました。

www.parasite-mv.jp

アジアの映画として、初めてアカデミー作品賞として話題になった作品で、ネットでも評判が良かったので行ってみたのですが、どよ~んとした気持ちだけが残りあまりいい作品だとは思えませんでした。(帰りの際に後ろの人が「誰も救われない映画だな」といっていたのはまさにその通りでした)。

 

 

この作品がハリウッド中心の映画界の中で認められた背景には先進国全体に「格差拡大」という問題が共通としてあるのではないかという声もあるようです。そういう点では2018年にカンヌのパルムドール賞を獲得した「万引き家族」も「先進国の貧困(所得格差ではありませんが)」に焦点を当てた作品でしたね。

 

そんな折、ハーバードビジネスレビュー(HBR)を通じてマッキンゼーが発行したレポートを知りましたのでご紹介したいと思います。

 

タイトルは”The social contract in the 21st century(21世紀における社会契約)”。

内容はOECD加盟22か国(中国は含んでいません)の経済が2000年以降どのように変化していったかということを①workers (労働者)、②consumers(消費者)、③savers(貯蓄者)の観点からまとめています。

www.mckinsey.com

 日本は、他の先進国と比べていろいろな面でユニークな部分もある一方、非正規の労働者の増加や年金問題など共通の点もあります。

 

このようなデータから先進国全体の兆候を知ることは、世界的映画祭での受賞作品の背景(?)や日本でマスコミがにぎわせていることの客観性を確認することができるいい機会だと思います。

 

Executive summary(概要版)でも36ページありますが、グラフがとても分かりやすく特に全体をまとめた7ページ目はレポート概要を一目でわかりやすく伝えるお手本のような内容ですので是非目を通してみてください。

 

世界全体の傾向

レポートのまとめを簡単に総括すると以下の通りとなります。

 

①労働者観点から見た経済:21世紀当初に比べ4,500万もの新しい雇用が創出されうち3,100万についてはの雇用である。一方、雇用創出の多くはパートタイム(4.1%増)によるものであり、フルタイムの雇用(-1.4%)は逆に減っている。結果、平均給与はほとんど変わらず(むしろ経済成長率との相対比は-0.9%)、相対的貧困層(各国の所得の中央値の半分以下の所得)は増加(1.7%)している

 

消費者から見た経済:グローバリゼーションや技術進歩により通信費や衣服などの価格は大幅に下落している。特にデータにかかるコストは90%も下がりその分利用が拡大に増えている。ただし、住居費や教育費、医療費等が値上がり、収入が増加してもこうしたコストの値上がりで実際の所得は増えていない。

 

貯蓄者から見た経済:資産(Wealth)の平均値は増えているものの、中央値はリーマンショック以前の状況には達していない(すなわち低所得の人の富が増えていないということになりますね)。また、年金運用が企業・政府から個人への責任に大きく移動したことにより退職後の資産が不安定になっている。定年後平均20年間生活するのに対し年金でカバーできる年数は10年にしか満たない。

 

日本はどうなのか?

いかがでしょうか。この20年で技術やグローバリゼーションの恩恵を受けてよくなっている面もある一方、雇用が不安定になったり、一部の生活費が上がったり、平均寿命が伸びることにより不安が助長される側面も出てきているということがわかると思います。こうした不安が「自国第一主義」につながるかもしれません。

 

対して日本だけのデータを見ていくと他国と大きく異なるのは②消費者から見た経済です。この20年間で欧米で値上がりした品目のトップ3が①教育(ヨーロッパ15か国+48%、アメリカ+70%)、②住宅(同+24%、同+26%)、③医療費(同+5%、同+35%)に対して、日本は①飲食費(+10%)、②移動費(+7%)、③医療費・衣服(+1%)です。住宅は逆に6%下がっていますが、家計に占める割合としては26%とヨーロッパ15か国(24%)、アメリカ(25%)と変わりませんので、それまでが高かったといえるのかもしれません。

 

実際家計に占める各品目の割合を見ると欧米・日本で各項目の利用割合が似通ってきています。これはグローバリゼーションで均一化された結果なのでしょうか??

 

③貯蓄者としては昨年話題となった’年金2,000万不足問題’を裏付けするような結果になっています。日本では18年間定年後の生活があるにもかかわらず年金(注:公的年金のみではありません)でカバーできる期間は8年のみしかありません。これは先進国全体では定年後の生活の半分が年金でカバーできる期間であることを考えると短いといえることができます。

 

 

きちんと自分で定年後の資金をためておくか、働けるように備える必要がありそうですね。

 

いろいろ考えさせられるレポートでした。