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効率性を求めすぎるのは危険?:ハーバード・ビジネス・レビューの記事から学ぶ

はじめに

ビジネスではどのレベルでも効率性を求めることが重要だといわれてきました。

実際日々の仕事の中でもいかに効率性を高めるかということを常に念頭に置いていますし、部下にもどうしたら効率的にできるかということを日々問い続けています。

そんな中、ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)の2019年1月・2月号で"The High Price of Efficiency(効率性の高い代償)”という記事が掲載されていました。「え~、効率性を求めることが何が悪いの??」ということでさっそく読んでみることにしました。Web版の記事もオンラインにありますので興味があればぜひ読んでみてください(タイトルは違っていますが、内容は私が雑誌で読んだものと同じです)。

hbr.org

*記事の購読は定期購読者以外は3本まで無料。その後は1記事当たり約9ドル課金されます。

効率性(efficiency)と生産性(productivity)の違い

この記事を読んでいて、まず効率性(efficiency)と生産性(productivity)の違いが何かを明確にしたいと思いました。同義語のように使われているのですが、今回筆者が効率性(efficiency)という言葉を使ったのにも意図がきちんとあると思ったからです。

手元の”Oxford Wordpower"ではこのように書いていました。(注:名詞の定義はよく形容詞の名詞と書かれているので今回はそれぞれの形容詞efficient (効率的な)とproductive(精算的な)で比較します)。

  • Efficient:able to work well without making mistake or wasting time and energy (間違いをしたり、時間やエネルギーを無駄にせずに働くことができる)
  • Productive:that makes or grows something especially in large quantities (特に大量に何かを作るもしくは育てる)

これを読む限り、効率性は「無駄や間違いを取り除く」ということに焦点がおかれており、生産性は「より多くを作り出す」ということが強調されているような気がしますね。

まだあいまいなので、"productivity vs efficiency"という言葉でググったり、HBRオンラインの中で調べてみたりしました。するとHBRオンラインの中の記事("Great Companies Obsess Over Productivity, Not Efficiency" (偉大な会社は効率性ではなく生産性を重視している)”でこのような定義をしているものに出会いました。

 

hbr.org

  • Efficiency is about doing the same with less. (効率性はより少ない資源で同じことを行う)
  • Productivity is about doing more with the same.  (生産性は同じ資源でより多くのことを行う)

このようにみていくとEfficiency(効率性)は、生み出す物自体は変わらないけどより少ない資源で行っていくということだと理解することが適切でしょうか?

何故効率性を求めすぎることが良くないのか

ビジネスの結果は正規分布ではなくパレート最適

 正規分布(英語ではGaussian distribution)というのは、ご存知のように平均値に多くの人が集まり、平均値から左右に離れていくほど少なくなっていくという形をとります。その形から英語ではBell Curve(ベル型曲線)とも呼ばれます。基本、統計学的には試行を多くすると、結果はランダムになるので正規分布に近づくと考えられ私たちの頭もそのように考えがちだと筆者は言います。

 しかし、実際のビジネスの結果はパレート最適(Parato Outcome)になるということです。”パレート最適”とは、約100年前に20%のイタリア人が80%の土地を所有しているということを発見したパレートさんというイタリア人経済学者の名前に由来をし、富を有するものにどんどん富が集中するという傾向がみられるというのです。

ビジネスはどんどん集中化している?

実際アメリカでは、1978年ではトップ100企業が上場企業の利益の48%を稼いでいたのですがなんと2015年には84%の利益を稼いでいます。また、産業別での集中化(concentration)の実態を調べたところ、2012年では1997年に比べて3分の2の産業で集中化が進んでいるということも明らかになっています。

日本についても同様のデータがあるのかもしれませんが、直感的にはアメリカと同じ傾向になるのではないかと思います。1990年から2000年にかけて銀行をはじめ経営統合の話が多く聞かれましたからね。

集中化は無駄を省き効率性を高めようというところから起きるのですが、集中化の弊害を筆者は以下のように上げています。

  • 効率化が進み独占化が進むとは何か突然変異的な問題が起きた時に対応できない。
  • プレーヤーが少なくなると、そのプレーヤーは自分の利益しか考えなくなるため社会全体の効率性を阻害してしまう。

このような弊害を避けるためにも効率性とともに弾力性(resilience)を重要視すべきだと筆者は解いています。

効率性とともに重要な弾力性(resilience)とは?

Resilienceは日本語では「回復力、弾力性」などという訳語が使われますが、手元の”Oxford Wordpower"では形容詞のresilientは”strong enough to deal with illness, a shock, change etc(病気やショック、変化に対応できるほど強い”と定義されています。日本語の弾力性や回復力ではニュアンスが異なるため、最近新聞でも”レジリエンス”とそのまま使われているケースもよく見ます。

 

要するに、長期的に健全なビジネス環境を作っていくために、一見無駄だと思われることに対しても投資をしたり、規制を行うことが必要だということなのです。そのために筆者は1)独占の禁止、2)株式市場や海外貿易で一定の障壁(friction)の設定、3)長期投資を行う株主へのインセンティブの導入、4)学習機会が豊富な仕事の提供、5)効率性と弾力性のバランスの必要性を教える学習プログラムの提供を唱えています。

 

この記事を読んで思ったのはやはり何でも効率一辺倒ではいけないということです。特に昨年はGAFAGoogle, Apple, Facebook,Amazon)といった大企業が称賛されるとともに、そのビジネスのやり方(とりわけ個人情報保護)という点で大きな批判にさらされました。とりわけ現在のすべてがつながる中で一つのプラットフォームを利用することが効率的ではあるのですが、その弊害が見えてきたところもあります。筆者はその点について述べてはいませんでしたが、ハーバード・ビジネス・レビューでこのような記事が掲載されること自体が効率性一辺倒に対する警鐘の必要性を多くの人が感じ始めている証拠かもしれませんね。