日々学び、感謝し、成長する

データとハートを活かす人事を目指した成長奮闘記(?)です

医師不足の対応方法は医師を増やすことではない?:ハーバードビジネスレビューの記事から学ぶ

 

アメリカでも医師不足が問題に!

コロナウィルス騒動のさなか、ハーバードビジネスレビュー(HBR)オンラインの記事もコロナに関するものが多くなってきています。

 

多いのは在宅勤務のコツや、電話・ビデオ会議の効率的な方法、不安をどうコントロールするかなどですが、その中で医療の非常時でのさらなる医師不足への不安について書いた記事がありましたので今回はこの記事を紹介したいと思います。

 

タイトルは”The problem with U.S Health Care Isn't a Shortage of Doctors(アメリカの医療問題は医師不足ではない)”です。

 

hbr.org

*記事の購読は定期購読者以外は3本まで無料。その後は1記事当たり約9ドル課金されます。

 

アメリカではコロナウィルス以前からPrimary Care Physiciansというかかりつけ医の不足が問題になっていたそうです。

 

Association of American Medical Colleges(AAMC)というアメリカの医科大学の団体によると2023年までに21,000人から55,000人のかかりつけ医の不足に直面すると予測し、アメリカ合衆国保健福祉省(Department of Health and Human Services)は2025年までに19万人のかかりつけ医(小児科を除く)が不足すると述べています。

 

ちなみにこの記事ではアメリカのかかりつけ医の総数は出ていませんでしたが、America's Health Rankingsという医療に関するデータを提供しているサイトによると10万人当たりのかかりつけ医数が159.6人でアメリカの人口総数(2億7200万人)でかんがえると現在43万4000人程度と考えられます(こちらを参照してください)。

 

ということは保健福祉省の予測に照らし合わせると現在のかかりつけ医を4割増しないといけないという恐ろしい計算になります。

 

医師を増やさなくても解決する方法はある

 しかし、筆者によると患者がかかりつけ医にアクセスできない要因は医師の数とは別のところにあり、意思を増やさなくてもこの問題は解決できるといいます。

 

ではどんなことが原因でかかりつけ医から診療を受けることができないのでしょうか。

  • Uneven distribution(医者の偏在):田舎・貧困地帯等での相対的な意思の不足
  • Incomplete Coverage(不十分な医療保険:日本と違い国民皆保険ではないので、医療保険への未加入者(13~14%)が単に診療を受けることができないという問題
  • Inconvenient hours(診療時間):夕方や夜、土日という社会人が行きやすい時間に空いていない
  • Inflexible care models(診療モデルの硬直化):かかりつけ医のオフィスで行うことが多く、看護師などが行える診療も医者が行っている
  • Payer Aversion(診療拒否): 公的保険の患者は「もうからない」ため新しい患者の受け入れを拒否している
  • Inefficient use of physician labor(医師の労力の非効率な利用):20%から30%が書類の作成等に費やされ診療行為が十分にできていない

 

こうした問題を踏まえ、筆者は1)医師・看護師・助手の連携によるより効率的な治療行為の推進、2)AIによる書類作業や診断のスピード化を提唱しています。実際にこのような試みがいくつかのグループで行われ、筆者の調査によると1)により44,000人のかかりつけ医増加と同様の効果が、そして2)では患者の数を30%増加することが可能となり、双方をうまく合わせることで19万人のかかりつけ医だけで初期治療に対応できると推測しています。

 

この記事を読んで

 日本でも医師の不足は深刻な問題としてよく取り上げられます。今回の記事で紹介したアメリカの事例は医療保険の違いもあるためそのまま取り入れられないかもしれませんが、「医師が不足している」と嘆くのではなくより根本的な原因を追究し医療現場の効率性を高めていくことが重要なのかもしれませんね。

 

筆者は医師不足を嘆く前に2つの質問を投げかけることを提案しています。

  • How many doctors would we really need if best, evdence-based practices were widely adopted? (もし実証ベースに基づいたベストの治療方法が全国に浸透したときに必要な医師数は何人か?)

 

  • How can we encourage adoption of these practices?(ベストの治療方法をどうやったら取り入れてもらえるようにできるか?)

 

是非日本の医療者や研究者にも考えてもらいたいことです。