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採用へのAI導入は時期尚早?:ハーバードビジネスレビューの記事から学ぶ

 

 採用でもAIばやり?

最近の人手不足で採用市場が活発化しています。

 

2018年の転職者数は17年比5.8%増の329万人と8年連続で増えた(日経2019年4月27日)そうですし、新卒も、すでに5割超の学生が内定を取っているとのこと(Yahooニュースより)。

 

そうなると企業の採用者は会社のPR、候補者集め、スクリーニング(書類、面接)、内定辞退者の引き留め、などなど非常に忙しくなりますが、その中でAIを使った採用の効率化が話題になっています。

 

HR分野での最新テクノロジーの活用で最も期待されているのが採用関係だという調査結果もありますし、実際ソフトバンクなどはエントリーシートの選別に活用をしているようです。

 

ではAIは採用関係の効率化に役に立つのかというとそれは時期尚早であるという記事をハーバードビジネスレビュー(HBR)で見つけました。

 

リンクのページの真ん中に副題として”Data Science Cant't Fix Hiring(Yet)(データサイエンスはまだ採用活動に対応できていない)"というのが今日ご紹介する記事です。

 

hbr.org

*記事の購読は定期購読者以外は3本まで無料。その後は1記事当たり約9ドル課金されます。 

 

ちなみに、記事全体はより広範囲に、人材不足を外の人材に求め転職支援サービス会社を使うのは適切でなく、内部の人材から探すべきだという内容になっています。内容はアメリカでの採用ですが、終身雇用についていろいろ議論のある日本にも示唆のある内容になっています。

 

AI導入の問題の理由

筆者が数えたところ(ウォートンの教授なので米国内だと思いますが)、データサイエンスを活用したツールを提供している業者は100以上超えているそうです。

 

こうしたツールを活用するメリットの1つとしては選考する人のバイアス(思い込み)を減らすことができるというものです。どんな人にも人の好みはありますし、性別・人種への(本人が気づいているかどうかはともかく)ステレオタイプ的な考え方もあります。

 

アルゴリズムによる選別はこのような主観的なバイアスを軽減してくれることが期待されます。

 

が筆者は、”These tools may also identify and promote the use of predictive variables that are (or should be) troubling. (これらのツールは問題を起こす(候補者の適性を)予測する要素を見つけ出し、推奨するかもしれない)”といっています。

 

それは何故でしょうか?いくつかの要素をあげています

  • Most data scientists seem to know so little about the context of employment.(データサイエンティストが採用のことをよくわかっていない).:実際にAIを活用するにはデータサイエンティストがプログラミングをするのですが、適切な人を抽出することができなくなります。実際優秀な社員の特性で集めやすいデータ(顔の表情、メールでの言葉遣い、ソーシャルメディアのコメント)だけでモデルを作るという例が多いとのこと。

 

  • Few employers collect the large volumes of data—number of hires, performance appraisals, and so on—that the algorithms require to make accurate predictions. (ほとんどの会社は適正な人物を探し出すアルゴリズムを作るに必要な大量のデータ(採用人数、業績評価など)を集めてない):モデルを作るためには大量のデータが必要で、そのためのデータを集めている会社はほとんどないというのです。ツールを提供する業者は自分の顧客のデータを集約して大量のデータを作ることができますが、それぞれの会社(だけでなく部門・職種)で求める人が違うので、結局機械での予測は間違ったものになってしまうリスクがあります。

 

  • All analytic approaches to picking candidates are backward looking, in the sense that they are based on outcomes that have already happened.(候補者の選別はすでに起こった過去の結果に基づいている):AIが選び出す「優秀そうな人」は今まで成功しかつ優秀な人に関する属性になるということです。そうなるとアメリカの場合、白人の男性ということになり選考にあたって差別を助長しかねない属性を使うことにもなりかねません。実際アマゾンはAIを使った選考により、女性差別の欠陥が浮き彫りになり2017年に辞めています。

jp.reuters.com

 

性別・人種による選考が法的に問題があるのと同様、採用活動においてはいろいろな法的な規制もあり、「優秀な社員の要素をみつければいいという問題ではない」というところも他の分野のAI活用よりも難しいところかもしれません。あるデータサイエンティストが離職率の低さと関係のある要素の一つとして「職場との通勤距離」見つけたそうですが、もちろんそれだけを理由に採用をしないというのは採用差別につながりかねません。

 

最後に筆者はAIを安価なツールとして活用しようとするところも問題だとあげています。実際AIを活用するには優秀な人だけでなく全社員の業績の評価やいろいろなデータが必要となります。本気でAIツールを活用していい人材を採用したいならそれに見合う労力・コストをかける必要があるということです。

 

この記事を読んで

 私は一時採用担当の業務をしていました。その中で特に最初のエントリーシートのスクリーニング(選別)はものすごく時間がかかるというのもわかっていますし、面接官・書類選考をする人のバイアスを取り除くというのもすごく難しいということもわかっています。なのでAIにより本当の意味で公正かつ効率的に採用業務ができればどれだけいいのだろうと思います。

 

ただし、これだけビジネス環境が変化する中、過去の優秀な人の属性を頼りに今後の優秀な人を採用しようとするところにはやはり矛盾があると思います。スキルのみならず働き方も変わっていますしね。。

 

また、自分の会社だけでAIに適したビッグデータを集めるということがそもそも難しいかもしれませんね。

 

どちらにせよ、AIから出てくる結果というものに私たちは期待しすぎなのではないでしょうか?以前パフォーマンスの優秀な人をメールからあぶりだした結果を紹介しましたが、そもそもビッグデータですごい答えや解決策が見つかると思うのが間違っているかもしれません。

 

millebon.hatenablog.com